恵み野臨床心理室員のご紹介

1 室長

小山 充道

(教育歴)
1983年北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
教育学博士(北海道大学 1990年度)。
臨床心理士(1989年 登録番号385)。

信州大学大学院臨床心理学専修教授、名寄市立大学保健福祉学部教授、藤女子大学保育学科教授等、40年間大学教員を務める。
この間、心理臨床実践を行い、臨床心理士養成にも携わる。
1996-1997南フロリダ大学大学院リハビリテーションカウンセリング研究科客員研究員。

(心理臨床歴)
〔病院臨床心理士〕内科およびリハビリテーション科で18年3か月間、週1日、臨床心理士として心理療法にあたる。
〔学生相談カウンセラー〕6校の大学で16年間、週1日、学生相談室カウンセラーを務める。
〔心理教育相談室カウンセラー〕外部来談者を対象とした面談。2校で15年間務める。
〔スクールカウンセラー〕北海道教育委員会、札幌市教育委員会、長野県教育委員会スクールカウンセラー。小学・中学・高校で約10年間、週1日スクールカウンセラーとして務める。

 大学退職後、2024年4月1日、『恵み野臨床心理室』を開設し、現在に至ります。
委員歴を含めた個人の詳細につきましては、リサーチマップ(https://researchmap.jp/)をご参照ください。


以下は小山充道の拙著(単著・編著のみ)のご紹介です。

本城秀次(名古屋大学医学部教授)
書評:小山充道著「脳障害者の心理療法‐病識回復の試み」北海道大学図書刊行会(1992)
〔心理臨床学研究第11巻第1号,63-65.(1993)より抜粋要約)

本書は、著者が大学院博士課程在学中から取り組んできた脳血管障害などの脳障害者への心理療法の臨床経験をもとに、「病識(自らの病気をどのように認識しているか)」という視点から脳障害者の心理療法を理論化した研究である。著者は、病気を受け入れることだけでなく、「病気を感じていないこと」の意味にも着目し、患者との関わり方を探究することを目的としている。
本書では、まず脳障害者は身体機能だけでなく自己意識も障害される存在であり、「心身ともに病んでいる」と捉えられることを示す。実際に心気症状、抑うつ、不安、自発性低下などを呈した複数の症例を通して、心理面接の経過を詳細に紹介し、リハビリテーションの中で心理療法が果たす役割の重要性を論じている。
続いて、「気づき」の概念を心理学的に整理し、覚醒・意識・注意・認知・洞察といった関連概念を比較検討する。また、ゲシュタルト療法、来談者中心療法、論理療法など人間主義的心理療法における「気づき」の考え方を分析し、それらを統合した独自の「心理臨床における気づきの地図」を提示している。
本書の中心となるのは「病識」の理論である。著者は病識障害を、病気を体験していてもそれを意識化できない状態と定義し、病識の発達を「病識欠如→病感→前病識(下位・上位)→病識獲得→過剰病識」という段階として整理している。さらに、脳障害者の病識欠如を単なる認知障害としてではなく、心理的・力動的側面も含めて理解すべきであると主張している。
リハビリテーションの章では、身体機能の回復だけでなく心理的支援の重要性を強調し、個人・家族へのカウンセリングや教育を含めた支援の枠組みを示す。さらに、心理療法の進行を患者の病識獲得段階と対応させ、「胎内期」「誕生期」「胎外期」「成熟期」という四段階モデルとして整理している。また、重度失語症を伴う脳障害児の症例を通して、言語訓練と心理療法を統合した実践例を紹介している。
終盤では、病態失認や認知症など病識障害を有する複数の症例に対して、この理論に基づく心理治療を実践し、病識の回復や心理的改善が認められた経過を報告している。最終章ではこれまでの理論と治療セッティングを総括し、脳障害者への心理療法の基本的枠組みをまとめている。
評者は、本書の最大の意義は、従来は心理療法が困難と考えられていた脳障害者に対し、「病識」という新たな視点から体系的な治療理論を提示した点にあると高く評価している。高齢化に伴い脳障害患者への心理的支援の重要性が増す中、本書は先駆的な研究として大きな価値を持つとされる。一方で、理論的考察が多く難解な箇所もあり、今後は理論のさらなる精緻化と、より多くの症例による有効性の検証が望まれるとしている。

成田善弘(精神科医、元日本精神分析学会会長)
書評:小山充道著「思いの理論と対話療法」誠信書房 (2002)
〔心理臨床学研究第20巻第6号,608-613.(2003)より抜粋要約〕

本書は、長年にわたり脳障害や身体疾患を抱える人々への心理療法に携わってきた著者が、自らの臨床経験を通してたどり着いた「思いの心理療法」の理論と実践をまとめたものである。著者は、病気や障害だけでなく、事故や犯罪、対象喪失などの後遺症によって苦しむ人々には、身体的治療だけでなく心理的支援が不可欠であると考え、「思い」を中心に据えた援助の重要性を説いている。本書全体には、著者自身の臨床家としての信念や患者への深い思いやりが一貫して表れている。

前半の第1章から第3章では、「思い」という概念を理解するための基礎が示される。第1章では、古代日本人の言霊信仰や『万葉集』における「思い」の表現を取り上げ、日本文化の中で「思い」が重要な意味を持ってきたことを考察している。第2章では、「心の姿」や「心理的エネルギー」、「心のありよう」について論じ、人とのつながりや孤独感など、人間の内面的な経験を丁寧に分析している。第3章では、著者が臨床対話の講師やカウンセラーとして培った経験をもとに、受講者や自身のカウンセリング体験を振り返り、「自分を知りたい」「自分らしく生きたい」という思いに向き合う姿勢が語られている。
本書の中心となる第4章から第6章では、「思いの心理療法」の理論と実践が詳しく展開される。著者は「思い」を、思考・感情・感覚・直観など意識的・無意識的な心の働きを含む「心の総体」と定義し、人間の心の基本単位であると位置づける。そして、思いは①事実が生じる、②思いが生まれる、③思いに苦しむ、④思いにふれる、⑤思いをつかむ、⑥思いを収める、という六段階を経て深まると考える。人は苦しみを言葉で語ることで自分の思いを理解し、最終的には受け入れて心を落ち着かせることができるとし、その過程を具体的な事例によって説明している。
第5章では、この理論を脳障害や身体疾患の患者に対する心理療法へ応用している。著者は、こうした患者は病気そのものだけでなく、「生活が脅かされる不安」や「自分の価値を失った」という心理的喪失感に苦しんでいると捉える。そのため、対話を通して患者の思いに寄り添い、「苦しむ・ふれる・つかむ・収める」という過程を支えることで、自己存在を再確認し、生きる力を取り戻せるよう援助する。また、対話とともに自分や家族、風景などを描く「自分描画法」を取り入れ、言葉だけでは表現しにくい思いを引き出している点も特徴である。さらに、身体への気づきを深める「身体対話過程」を重視し、「身体を通して心にふれる」ことの意義を論じている。
第6章では、脳障害患者や脊髄損傷後の夫婦への心理療法の事例を通して、著者の細やかで誠実な関わりと、それによって患者や家族の思いが変化・深化していく様子が描かれている。評者は、本書の最大の価値は、従来心理療法の対象として十分に扱われてこなかった脳障害患者に対し、新たな心理療法を実践し、その成果を誠実に示した点にあると評価している。一方で、第1章から第3章はやや導入部分が長く、内容を整理すればさらに読みやすくなった可能性もある。しかし、それもまた著者の「思い」の深さの表れであり、本書は病気や障害に苦しむ人々への新たな心理的支援の可能性を示した意義深い一冊である。

倉光修 (大阪大学大学院教授)
書評:小山充道著「学校における思春期・青年期の心理面接」金剛出版(2002)
〔臨床心理学 第2巻第6号,837-838.(2002)より抜粋要約〕

本書は,著者の長年の実践から紡ぎ出された臨床の知を, スクールカウンセラーなど, プロのセラピストに伝えようとする労作である。 著者は自らのアプローチを「思いの心理療法」 と呼んでいる。 この場合の「思い」 とは, “ある考えにくっついた感情” を意味している。 考えてみれば, 心理療法は 「否定的な思い」が 「肯定的な思い」 に変容する過程を促進する作業である。そして,この作業を深いレベルで進めていくには、クライエントに対する温かい 「思い」が不可欠である。 たいていの読者は,本書の至る所から著者のそうした思いを感じ取るにちがいない。本書は,さまざまな事例を通して現代の若者たちの内界とその成長過程を捉えるだけでなく, 学校の現状や教師の悩み、スクールカウンセラーや臨床心理士の課題について論じ、 さらに, 思春期・青年期を理解するためのヒント集を付加するなど,かなりバラエティーに富んだ内容から構成されている。ところどころに著者自身がこの領域に進んできた経緯が描かれていることも興味深い。それぞれ示唆に富むものであるが, ここでは 「思いの心理療法」が適用された事例について略述しよう。第1例は、拒食、過呼吸, 不登校などを経験した高校2年生女子で, 対人不安が基底にあると思われるケースである。1年間の面接過程のなかで、彼女は議長に立候補したり、クラスメートへの怒りが表出できるようになり、最終回ではチャイムより大きな声で話せるようになった。第2例は対人恐怖感を訴える高校1年生男子である。父親の職業を知らないことが端的に示すように, 家族との絆が希薄で,閉眼させると地下鉄でわざとらしく笑っている自分が見えるという。彼はいつも鏡を携帯しており, 描画では「怒った顔」を描き, それをじっと見つめている。第3例は躁うつを経験した大学2年生男子のケースである。心理テストの結果から、3年間の面接過程でクライエントがかなり安定してきたことが読みとれる。実は彼は初回面接の3カ月前にやはり躁うつ傾向のあった母親を自殺で亡くしていたのだが, そのことを4 回生の終わりになって 「友だち」のように感じたカウンセラーに初めて告白する。著者は心が立ち直るプロセスを、「苦しむ→ふれる→ つかむ→収める」 と捉えている。たしかに, 第1例では苦しみに触れていく過程でアサーションの力が次第に育まれているし、第2例ではアイデンティティをつかむ萌芽が見て取れる。そして第3例では、問題を自分のなかに収めていく過程がしのばれる。ただ, 欲を言えば,(スクールカウンセリングでは難しいことはよく承知しているが)もう少し詳しい経過報告があればと思った。

上里一郎(広島大学名誉教授)
書評:小山充道編著「必携 臨床心理アセスメント」金剛出版(2008)
〔精神療法 第35巻第2号,255-256.(2009)より抜粋要約〕

本書は、臨床心理業務において重要な役割を担う心理アセスメントについて、教育・実践の両面から体系的に学べる優れた専門書である。心理アセスメントには、診断のための客観的資料を提供することと、心理面接や精神療法における状態把握や予後の 判断に役立つ情報を得ることが求められる。しかし、日本では心理検査や心理尺度の整備が十分ではなく、検査の誤用や標準化・信頼性の不足、手引書の内容の不十分さなどの課題がある。そのため、単なる検査の紹介ではなく、検査の選択方法、テストバッテリーの組み方、結果のまとめ方、関連研究の展望まで含めた実践的な解説が望まれている。
本書は、知能検査をはじめ90種類に及ぶ心理検査・尺度を幅広く取り上げ、臨床経験に基づく具体的な活用のヒントを豊富に示している点が大きな特徴である。また、クライエントの変容過程を捉える同化分析やトラウマ体験のアセスメントなど、従来の類書には少ない新しい内容も収録されており、心理面接の効果を評価し適切な介入を判断するための視点を提供している。さらに、テストバッテリーの構成や保険適用の心理検査についても詳しく解説され、臨床家にとって実践的な内容となっている。一方で、各検査について結果の解釈や特徴・限界、具体的な事例の紹介がさらに充実すれば、より実践に役立つ内容になると思われる。総じて、本書は心理アセスメントを学ぶ専門家にとって、レベルが高く携えておく価値のある一冊として高く評価される。

2 研究員

 恵み野臨床心理室を支える2名の研究員からは、各自の研究領域に関わる助言および援助をいただきます。

研究員:認定言語聴覚士修士(リハビリテーション科学)]の男性STです。臨床神経心理士資格もお持ちです。恵み野臨床心理室では、失語症や高次脳機能障害等に関わる支援および研究に携わります。

客員研究員:医師博士(医学)]をお持ちの男性医師で、日本外科学会外科専門医です。臨床心理学、哲学にも造詣が深く、身体と心への関心をお持ちです。恵み野臨床心理室では、心と身体の観点から助言および研究に携わります。